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『エクサスケールの衝撃 』(抜粋版) 感想

日本人が書いた本で、ここ数年話題の未来予測本といえば『エクサスケールの衝撃』だろう。

 

エクサスケールの衝撃

エクサスケールの衝撃

 

 

非常に長い本だが、最近、抜粋版も出て大変読みやすくなった。

私は、原本がさすがに長すぎると思ったので抜粋版を読んだ。

 

『エクサスケールの衝撃』抜粋版  プレ・シンギュラリティ  人工知能とスパコンによる社会的特異点が迫る

『エクサスケールの衝撃』抜粋版 プレ・シンギュラリティ 人工知能とスパコンによる社会的特異点が迫る

 

 

筆者の主張を簡単に要約すると、

「2020年代には、スーパーコンピューターの性能が1エクサフロップスを越え、その時点(プレ・シンギラリティ)から人類は異次元の社会変革に巻き込まれる。

その社会変革は、一歩間違えれば人類を崩壊させかねないため、我々は、プレ・シンギラリティに備えて入念な準備をしておく必要がある。
我々日本人が一番初めに次世代スーパーコンピューターを作り出すべきである。」

 

ということになるだろう。

 

以下、感想。

私が読んだ抜粋版の方には、文章内に引用元が書かれていないし、参考文献も挙がっていない。

この手の本で、引用元が書かれていないのをよく見かけるが非常に不便である。

引用元が書かれていない本は信用できないとまでは言う気はないが、

筆者の書いてあることについてより詳しく調べようと思ってもできないので、大変困る。

筆者の思考のスケールの大きさを否定するわけでは全くないが、科学者が書く本にしては、不親切ではないだろうか。

 

筆者は、リスクを取って、自らの手で「エクサスケールの衝撃」を実現するため行動している。

 

news.mynavi.jp

 

その点、ただ適当な未来予測をして、無駄に大衆を煽っているのとは違うとは感じる。

筆者は、本気でプレ・シンギラリティ後の世界を案じているのだ。

 

ただ、本書の後半の主張は、エネルギーコストがほとんどゼロになるという前半の主張に拠りすぎている気がする。

小型核融合施設を始めとする、いくつかの新時代のエネルギー技術がいつ実用化できるかで、その後のシナリオが変わりすぎるのだ。

そこは、少し筆者の主張の弱さを感じた。

 

また、注意をしなければいけないのは、筆者が、「プレ・シンギラリティ」を越えたその瞬間に世界が劇的に変わると言っているわけではない点だ。

シンギラリティ同様、筆者のいう「プレ・シンギラリティ」も、その時点そのものが世界を変えるという誤解を与える。

スパコンにしても、AIにしても、プレ・シンギラリティやシンギラリティを越えた後も世界は変わり続ける。

世界の変化の速度が大きく加速される転換点であると言っているに過ぎない。

 

 

さらに、文句をつけるのならば、筆者のいう「我々日本人が次世代スーパーコンピュータを実現する」(終章名)べき理由が全く理解できない。

筆者の主張では、

日本人は高い道徳心を持ち合わせており、利他の精神に富んでいるため、次世代スーパーコンピュータによる社会変革の利益を人類のために使用できる

ということになるだろう。

しかし、日本人は道徳心が高いなんて誰が決めたのだろうか。

なぜ、そんな根拠もない話を持ち出すのだろうか。

 

「筆者は日本を愛しているために、日本経済がこれからも発展して、日本の人々が幸せになってくれれば嬉しい。

そのためには、日本がいち早く次世代スーパーコンピュータを開発し、世界に先んじて社会変革の利益を得なければならない。

その際、その利益を軍事利用などするのではなく、人類全体の幸福のために使おう!」

 

というので、なぜダメなのだろうか。

日本を愛するのも、日本に発展して欲しいと願うのも自由のはずだ。

純粋な願望ではなぜダメなのだろう。

謎の日本人が優れている論を持ち出す必要がどこにあるのだろうか。

その点はさっぱり分からなかった。

 

 

全般には、非常に刺激的な内容だった。

私は、バリデーションのできないモデルに基づくシュミレーションは好きではない。

同様に、「未来予測本」があまり好きではない。

未来とシュミレーション結果のズレを繰り返し検証し、予測モデルを改善することができないからだ。

しかし、この本は読んでよかったと素直に思える。

この本は、ただの未来予測本では決してないからだ。

最新テクノロジーが非常に分かりやすく紹介されており、心の底からワクワクする内容だった。